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私は、ストーリーも実は小説にとってたいした問題じゃないと思っています。ストーリーは自然に発生してくるもので、むしろ自分が書こうとしている、まだ書かれていない物語が、すでにストーリーを持っているわけです。ストーリーは作家が考えるものではなく…
親任式を終えて麻布桜田町の自邸に戻った新平は、母屋の二階奥の和室に籠ると、焦土と化した帝都を「国家百年の大計」によっていかに「復興」させるか、知力を振り絞った。蠟燭の炎がゆらめく薄暗い部屋で、構想を書きつける巻き紙と筆を前に腕を組んだまま…
疲れたからだを引きずって、新平は、検疫事業の終了を児玉へ報告しに行った。児玉は、よくやった、とひととり労をねぎらったあと、箱を取り出して言った。 「この箱はきみの月桂冠だ、持っていって、開いてみよ」 はて、なんだろうと新平が箱を開けてみると…
日本の学者たちが、今、英語でそのまま書くようになりつつある。自然科学はいうまでもなく、人文科学でも、意味のある研究をしている研究者ほど、少しずつそうなりつつある。そして、英語で書くことによって、西洋の学問の紹介者という役割から、世界の学問…
いかに漱石が自分と遠く離れた文字文化に生きていたかをまのあたりにしたとき、胸を打つのは、漱石の寂しさである。これからの自分の読者は、自分と同じ世界を共有することはないのを知りつつ生きる一人の人間の寂しさである。しかも、その寂しさは、非西洋…
<国語>とは、もとは<現地語>でしかなかった言葉が、翻訳という行為を通じ、<普遍語>と同じレベルで機能するようになったものである。 『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』 〜三章 P.133〜
その<書き言葉>による人類の叡智の蓄積は、たいがいの場合は、一つの<書き言葉>でなされたほうが論理に適う。どんな言葉で話していようと、地球に住むすべての人が一つの<書き言葉>で読み書きすれば、人類の叡智は、もっとも効率よく蓄積されるからで…
ここでは、「国語」を、「国民国家の国民が自分たちの言葉だと思っている言葉」を指すものとする。<国民国家>という概念が近代的な概念であるように、<国語>という概念も近代的な概念である。 『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』 〜三章 P.105〜
それは、一度この非対称性を意識してしまえば、我々は、「言葉」にかんして、常に思考するのを強いられる運命にあるということにほかなりません。そして、「言葉」にかんして、常に思考するのを強いられる者のみが、<真実>が一つではないということ、すな…
書くという行為は自慰行為ではありません。書くという行為は、私たちの目の前にある世界、私たちを取り巻く世界、今、ここにある世界の外へ外へと、私たちの言葉を届かせることです。それは、見知らぬ未来、見知らぬ空間へと、私たちの言葉を届かせ、そうす…
私はくり返し思った。 人はなんとさまざまな条件のもとで書いているのであろうか。 だが、さらにくり返し思うことがあった。 人はなんとさまざまな言葉で書いているのか。 そして、その思いは、作家たちと一緒にいるあいだに、どんどんと深まるばかりであっ…
まったく違う階層に属する、違う経験をしてきた人たちを理解しようと思ったら、自分と相手の間に横たわるギャップをイマジネーションで埋める必要があります。そのとき、それまでの人生でいろいろな体験をして、いろいろな人に出会っていればいるほど、話の…
九〇年代に入って、日本の政治システムは、他の国より後れるようになったのではなく、激変した日本社会に追いつかなくなっていた。私が「日本の政治は後れている」と発言したのは、日本の政治が日本の社会の変化に後れている、ついていけていないという意味…
アメリカでも日本でも、同じ文化で育った夫婦の離婚率が高いことを思うと、夫婦喧嘩になったとき、「ヤッパリ文化が違うから」と文化を悪者にして、仲直りできるという便利さが国際結婚にはある。 『政治と秋刀魚』 〜第三章 P.134〜
独立するとなったとき、取引先が一社しかないなら、時期尚早です。 いくら大口でも、「この会社と切れたら自分はアウト」という状況はフリーランサーにとって危険すぎます。いすの脚は最低限三本ないとグラグラしますが、フリーの場合、一社との関係が突然切…
僕は結構、「無理やり」というのが好きなのです。やる気のない、ぐたっとした雰囲気の連中を変えていくというのが、むしろ快感だったりします。これは大人に対しても同じです。講演会などで講師としてよばれたときに、会場に最初から眠ろうとしている人がい…
身も蓋もない言い方をすれば、小泉政権は、従来の審議会方式による官僚主導から官邸主導に変えただけのことで、与党が国会でパワーを持っていることが当然の前提になっていた。 『さらば財務省!』 〜終章 改革はやめた日本はどうなる P.282〜
キャリアは、みな例外なくエリート意識を持っている。はっきりいえば傲慢だ。「日本で有数の頭脳を持つ、超エリートの自分が、一般の民間人より恵まれていてもどこが悪い」が、官僚の感覚で、天下りにも罪悪感はない。 しかし、官僚の自負心とは裏腹に、能力…
日頃、マスコミは政治主導の政策づくりが必要だと訴えている。そういう観点から見れば、安倍総理の決断は、まさに霞ヶ関を排除して政治主導の政策決定を目指した歴史的な快挙だったといえるが、不思議なことに、翌日の新聞は事の経緯を一切報道しなかった。 …
DNAは紫外線や酸化的なストレスを受けて、配列が壊れることがある。ATAAという部分配列がなくなったとしても、相補的なもう一方の鎖にTATTという構造が保存されていれば、自動的に穴を埋めることができる。事実、DNAは日常的に損傷を受けており、日常的に修…
日本のテレビ番組は日本の映像にかける投資・人材の7割に及ぶお金と才能を使っているにも関わらず、放送終了後の二次利用・コンテンツの海外展開にあまり力が注がれていない。 ICPF第19回「政府の知的財産戦略」
テレビドラマなどは主役、準主役級しか契約をしない。さらに言うと主役、準主役級も撮影完了後に契約を締結するという有様。きちんとした契約のもと、コンテンツ産業の従事者にきちんとした権利を提供することが重要。 ICPF第19回「政府の知的財産戦略」
カラオケの例からもわかるように聞くだけでなく、日本人は実際も自分が創作に参加することが好きな国民性。よって、「幅広い人が自ら創作活動をすることができるようにする」、というポイントは日本がコンテンツ大国になるためには非常に重要。 ICPF第19回「…
「ここは正念場だ。何としても斉藤さんには、折れないように頑張ってもらわなければ・・・」 冨山和彦を筆頭にした幹部たちはこう決意し、「究極の組織防衛策」に出る腹をくくった。 「辞表を預かっていただけますか」 冨山は辞表を書いて、斉藤に委ねた。他…
銀行は、企業のバランスシート(帳簿)をしっかり管理することを最優先に考える。「きちんと借金を返済できる会社にすること」が、銀行の市場命題だからだ。こうした論理に基づいて、数名の行員を役員として企業に送り込み、経理をがっちり握るのが定石だっ…
バイアウト・ファンドは、未公開企業に出資して過半数の株式を取得し、経営権を握る。その上で、不採算部門の切り離しや本業の建て直しによって抜本的な収益力を向上させ、経営戦略の変更に踏み込む。そうやって企業価値を高め、株式上場や譲渡でキャピタル…
「再生機構は、あくまで独立した公正透明な組織でなければならない。やはり、メガバンクから出向者八人には、『お帰りいただく』ほかはないな」・・・ この決定によって、再生機構は、「(大手銀行という)既存の大組織と良好な関係を維持しながら業務を進め…
そうした中で、経団連の事務方が作成した十人ほどの名前が並んだリストが、谷垣のもとに届けられた。そのリストを眺めた準備室の複数の幹部たちは、さっと顔を曇らせた。 「これは奥田さんが自分で選んだとは思えないな。財界の人たちの処遇先として再生機構…
ショックを受けたのは、わたしの考えやメッセージからではなかった。話し方、情熱、怒り、直截さであった。たとえば、「ぶっ飛ばす」「当社の事業をかすめとる」といった言葉だ。まったくIBMらしくない言葉、経営者らしくない言葉だ。 ・・・それで、わたしはあ…
ライブドアは新たに発行した株をM&Aチャレンジャーを経由してVLMA2号という投資事業組合に持たせ、その売却代金を自らに「還流」させることで、売上高や利益を膨らます材料に使った。この手法でライブドアは2004年9月期連結決算の売上高を37億5000万円も底上…