本質は単純な直感やひらめきではなく、自分の接したリアリティに宿る

直感は研究の現場では負に作用する。これはこうに違いない!という直観は、多くの場合、潜在的なバイアスや単純な図式化の産物であり、それは自然界の本来のあり方とは離れていたり異なったりしている。形質転換物質についていえば、それは単純な構造しか持ちえないDNAであるはずがなく、複雑なタンパク質に違いないという嗜好こそが、直観の悪しき産物であったのだ。
あくまでコンタミネーションの可能性を保留しつつも、DNAこそが遺伝子の物質的本質であることを示そうとしたエイブリーの確信は、直感やひらめきではなく、最後まで実験台のそばにあった彼のリアリティに基づくものであったのだ。そう私には思える。その意味で研究とはきわめて個人的な営みといえるのである。
生物と無生物のあいだ』 〜第3章 フォー・レター・ワード P.56〜