半年たてば分子レベルではお変わりありまくり

よく私たちはしばしば知人と旧闊を叙するとき、「お変わりありませんね」などと挨拶を交わすが、半年、あるいは一年ほど会わずにいれば、分子のレベルでは我々はすっかり入れ替わっていて、お変わりありまくりなのである。かつてあなたの一部であった原子や分子はもうすでにあなたの内部には存在しない。
肉体というものについて、私たちは自らの感覚として、外界と隔てられた個物としての実態があるように感じている。しかし、分子のレベルではその実感はまったく担保されていない。私たち生命体は、たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい「淀み」でしかない。しかも、それは高速で入れ替わっている。この流れ自体が「生きている」ということであり、常に分子を外部からあたえないと、出ていく分子との収支が合わなくなる。
生物と無生物のあいだ』 〜第9章 動的平衡とは何か P.162、163〜