人は「文明」だけでは生きられず、体力が衰えると自分の「文化」にくるまりたくなる

こうして世界の人々が集まってくれば、そのことがまた、日常生活、社会道徳、さらには映画演芸などの大衆芸術を含めたアメリカ文明の、普遍性をたかめることになる。著者はその点も見逃さず、多民族国家であることのつよみは、諸民族の多様な感覚群がアメリカ国内においても幾層もの濾過装置をへてゆくことである。そこで認められた価値が、そのまま他民族の地球上に普及することができる」と、的確な指摘をしている。
「文明」があまりかでこのようにして規模を拡大してきたことを述べながら、本書のさらに興味深い点は、「人は文明だけでは生きられない」という著者の認識にある。「人間は体力が衰えると、カイコがマユの中に入るように自分の文化にくるまりたくなる。」アメリカ人の多くはいま、「文明」で疲れた神経を癒そうとして、「文化」を個々に探し求めているのではないか、と著書は考える。
〜『アメリカ素描』 〜解説 P.401〜