電気通信の大域幅は世紀が変わるごとに二倍になる

なぜコンピューティングは、見るからに不健全な発展を遂げたのだろうか。なぜコンピュータのパーソナル化は、このように複雑で無駄な現象を伴うのだろうか。理由は簡単だ。二つの法則が、この事態を招いたのである。一つ目の、そして最も有名な法則は、インテルの設立者の一人であり優秀な技術者であるゴードン・ムーアが一九六五年に述べたものだ。この「ムーアの法則」は「マイクロプロセッサの能力は一、二年ごとに二倍になる」というものだった。第二の法則は、ムーアの同僚で同じく優秀な技術者であるアンディ・グローヴが一九九〇年代に提唱した。その法則とは「電気通信の大域幅は世紀が変わるごとに二倍になる」というものだった。グローヴは技術的な事実としてではなく、瀕死の電話業界に対する皮肉として述べたのだが、この法則は根本的に真実を突いている。コンピューティングの歴史と通じて、コンピュータの処理能力は通信ネットワークが拡大する以上に急速に進歩してきた。この矛盾の意味するのは、企業が自社のオフィスにコンピュータを設置して、自社のローカルネットワークに接続したときだけ、企業は高度なコンピュータから利益を得ることができるということだ。直流システム時代の電力と同様に、コンピューティングパワーを遠隔地まで効率的に移送するための実用的な方法が存在しなかったのだ。
クラウド化する世界』 〜第3章 デジタル時代のからくり装置 P.69,70〜