人がかくもさまざまな言葉で書いているという事実は最後まで驚きであった

私はくり返し思った。
人はなんとさまざまな条件のもとで書いているのであろうか。
だが、さらにくり返し思うことがあった。
人はなんとさまざまな言葉で書いているのか。
そして、その思いは、作家たちと一緒にいるあいだに、どんどんと深まるばかりであった。人が地球のあらゆるところで書いていること、金持の国でも貧乏な国でも書いていたり、言葉の自由を抑圧されながらも書いていたりする事実には、しだいに慣れていった。だが、人がかくもさまざまな言葉で書いているという事実は、最後まで驚きであった。
日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』 〜一章 P.43、44〜