社会が押しつけずとも協調を重んじ、自己を押し出すことは日本人はしない

この二つのケースとも、その行為は社会が押しつけたものではなく、自尊心のしからしめる所だった。二人にとっては自分に対する誇りの問題だった。最も純粋な形の個人主義の表現である。
日本にもこの意味の個人主義者はたくさんいる。彼らは他の人たちと何ら変わりなく、協調を心がけている。自分の利害に関わりのある摩擦が起きても、西洋人より一歩も二歩も多く退いて、がむしゃらに自己を押し出すようなことはしない。
もしみんなが自我を全てに優先してしまったら、社会は崩壊するという鎖国時代の感覚が一貫してまだ生きているのである。
『驕れる白人と闘うための日本近代史』 〜第十六章  P.271〜