相手の情熱が消耗しつくす、または抑制しきれず欠点を暴露するまで泰然自若と忍耐を保つ

この泰然自若たる冷血性はまたフーシェ特有の力なのだ。神経質に気にかかるというようなことは絶対になく、感覚の欲望にとらわれるということもない。情熱という情熱は、その額の厚い壁の背後に鬱積しては、散ってゆく。自分の実力は遊ばせておいて、その間じっと他人の過失をうかがっている。他人の情熱は燃えるだけもえあがらせておいて、自分はじっと待っている。そして相手の情熱がついに消耗しつくすか、あるいは抑制しきれずに欠点を暴露すると、その時はじめて彼は情容赦もなくつっかかってゆく。その無神経な忍耐力の強さは恐ろしいくらいである。
『ジョゼフ・フーシェ』 〜第一章 進出期 P.20〜