情勢を達観し、公然の振る舞いに縛られず、栄誉や人気というあやしげな幸福は人にくれてやる

輝かしい栄誉も人気というあやしげな幸福も、よろこんで彼は他人にくれてやる。情勢を達観し、人々を左右し、表面上の世界の指導者を実際においてあやつり、自分のからだは賭けないで、あらゆる博打のなかでも最高度の興奮を与えてくれる恐ろしい政治の博打をうつことで、彼は満足なのだ。公言した言葉や公然とふるまった態度に縛られている時に、光を恐れ蔭にかくれている人物たる彼は、いつも心中なんの束縛も受けず、したがって表面上固くつかまっていた柱も逃げ道となるのだ。
『ジョゼフ・フーシェ』 〜第一章 進出期 P.29〜