物語には弱った心を支える力や現実に吹き消された希望の灯りをともし直す力を培う役目がある

未曾有の悲劇のただなかで、小説が一体何の役に立つのか、そんな無力感に包まれている作家もいるでしょう。小説なんかよりも、今ここにある危機を乗り越えるための具体的なハウツーやオピニオンを備えた本こそが必要だ。そう考える人もいるでしょう。でも、わたしは物語には弱った心を支える力や現実に吹き消された希望の灯りをともし直す力、自分とは違う誰か、此処とは違う何処かに思いを寄せるための想像力を培う役目があると信じています。
『ニッポンの書評』 〜あとがき P.229、230〜