物語の持っている力に導かれ、作家は一番後ろから追いかける

「こっちへいこう。こういうふうに世界を広げてゆこう」という、物語自身が持っている力に導かれないと小説は書けないと思います。一人の作家の頭のなかで考えることのできる程度はたかだか知れていますので、作家が先頭に立って登場人物たちをぐいぐい引っ張って書くような小説は、むしろおもしろくないと思っています。自分の思いを越えた、予想もしない何かに助けてもらわないと、小説は書けません。
ですから私はときどき、小説を書きながら、書き手であるはずの自分自身がいちばん後ろを追いかけているな、と感じます。

『物語の役割』 〜第一部 物語の役割 P.49〜