自分の読者が、自分と同じ世界を共有することのないという寂しさ

いかに漱石が自分と遠く離れた文字文化に生きていたかをまのあたりにしたとき、胸を打つのは、漱石の寂しさである。これからの自分の読者は、自分と同じ世界を共有することはないのを知りつつ生きる一人の人間の寂しさである。しかも、その寂しさは、非西洋人すべてが多かれ少なかれ通りぬけなければならない寂しさである。
日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』 〜五章 P.225〜