児玉源太郎の人間のケタ

疲れたからだを引きずって、新平は、検疫事業の終了を児玉へ報告しに行った。児玉は、よくやった、とひととり労をねぎらったあと、箱を取り出して言った。
「この箱はきみの月桂冠だ、持っていって、開いてみよ」
はて、なんだろうと新平が箱を開けてみると、なかには検疫事業事務官長、後藤新平への不平不満、悪態のかぎりを綴った電報が、数百通、ぎっしりと詰っていた。
これほどまで、おれは憎まれていたのか……それにしても、児玉さんはこんな電報が舞い込んでいることなどオクビにも出さず、全責任を委ねてくれていたとは……偉い人だ、人間のケタが違う
児玉が勝利の証として差し出した月桂冠はずっしりと重かった。
後藤新平 日本の羅針盤となった男』 〜第2章 疫病との戦い P.99〜